定食屋でひっそり向かい合う夫婦の話「岸辺の旅」

浅野忠信、深津絵里主演の「岸辺の旅」

夫婦とは向かい合っているのにどこか真正面にいない、一番近い他人であるし、一番親しい人でもある。そんな空気感のある映画でした。

瑞希の元に、3年前に失踪した夫優介がふらりと帰ってくる。瑞希は実に静かにその事実を受け入れ、まるで昨日まで一緒にいたかのように「白玉だんご」を振る舞う。そんな彼女に優介はもう自分は死んだと告げ、この3年間でお世話になった人のところに一緒に旅に行こうと瑞希を誘う。


実に不思議な、ホラーにもなりえそうなストーリー展開。黒沢清監督と聞いて、なるほどと思えるところがあるのですが、優介が紹介する「お世話になった人たち」は死に直面したことのある人たちばかりで、ただ見た目にはわからない。

そこで思うのは、誰しも遠くも近くも死には遭遇しているものだし、それは永遠に生とともには存在し得ない。どちらかに行けばもう戻れない、けれどその境界を彷徨っている人は案外すぐ近くにもいるのではないかということです。


瑞希は混乱し、優介との日々にかつての愛を取り戻していくのだけれど、結局現実を受け入れることを選んでいき、旅を通して優介との思い出をさらに積み上げていくことになる。


長らく時間をともにした家族にとっても思い出はその時の記憶でしかないのだけれど、死を受け入れていく時間というものはどこか時空の違う流れの中にいるような気がします。

瑞希はある日突然に愛する人を失った。その虚無感の中でどこか現実と折り合えずに時間の流れを無駄に引き延ばすように過ごしているのだけれど、優介との旅の中で彼がもうこの世にいない、ということを理解していくようになる。

優介がまだ完全にあちらに行けなかったのは、もしかして瑞希が呼んだからかもしれない。


死を迷う、ということはその人自身というよりは周囲の人間の強い思いから来るものかもしれない。


ひっそりと旅先の定食屋で向かい合う他人でもあり夫婦でもある2人が、馴染みの客の中で何となく浮きながらも、いつもの食卓のように深々と過ごす、そんな映画です。






エコトバ 遊び〜LULU factory

旦那さん(通称:きんちゃん)と2人暮らしのエコトバリスト(50ちょい手前)。言葉と(時々)写真で表現する女です。フィクション大好き!映画・小説・ドラマ、食べること大好き!飲み食いスイーツ全てOK!!忘れかけた乙女心はAAAのNissyからくすぐられ、とことん自分に甘い「自分の好きに忠実に没頭」することを第一にしている物書き人です。

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